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大阪高等裁判所 昭和32年(う)822号 判決

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、記録添付の弁護人越智比古市提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

一、論旨第一点について、

論旨は、原判決は、被告人らの輸出が通商産業大臣の承認を得ていないことを当該法条に照らして処断しているが、これは法令の適用に誤があつて、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかである。被告人らの本件所為は他人の外貨交換済証明書又は外貨買取済証明書を利用して銀行の認証を得ているのであつて、その間に直接非居住者らから輸出代金を受領していないが、非居住者らがそれぞれ銀行に売却して得た右証明書にそれぞれ委任状が添付されておるから、このような場合には、代理貿易として銀行において認証されているものである。そもそも法が標準決済方法によつて輸出がなされる場合に、通商産業大臣の承認もなくして、銀行の認証のみで輸出することを許し、又右の決済方法以外の方法で輸出するときには通商産業大臣の承認にかかわらしめているのも、いずれも外貨資金の収入を確保するためであつて、その趣旨は同様である。そうすると被告人らの本件決済方法は、結局において、為替銀行に対して対外支払手段が売却され、我が国内に外貨資金が入金されて居るのであるから、外貨資金を確保する法の目的に違反していないものである。従つて直接的には純粋な標準決済方法ではないにしても、違法性ある可罰的行為であるとは解釈せられるべきではなく、通商産業大臣の承認を得ていないからといつて処罰さるべきではない旨主張するのである。

しかし、原判決挙示の証拠によれば、本件貨物の韓国向け輸出は、韓国船員の非居住者が日本で買受けた貨物を韓国に持つて帰り、又は日本に居住する韓国人が韓国に貨物を送つてこれを売つて商売をすることを目的とするもので、同人らは外貨交換済証明書又は外貨買取済証明書を持つていないものであるから、無為替のため、標準外決済の方法によるものであり、通商産業大臣の承認を受けなければ、正規の輸出ができないものであるにかかわらず、同人らより依頼を受けた被告人らが、本件輸出とは何等の関係もない他人から譲り受けた外貨交換済証明書や外貨買取済証明書等を利用し、外国為替銀行に対し、あたかも、標準決済方法による輸出である如く詐つて、内容虚偽の標準決済の認証を受け、これを税関に提出し、同係員を欺罔して、形式上の輸出許可を得たものであることが明らかであり、たとえ、所論の如く、結局において、外貨資金の収入が確保できる状態にあつたとしても、前記の如き脱法的手段方法を以てすることは、外国為替及び外国貿易管理法第一条に明記してある外国貿易の正常の発展を図る目的に副わないもので、法の許容しないところであると解せられる。従つて、被告人らの本件輸出は、通商産業大臣の承認を受けなければならないのにかかわらず、その承認を受けずして輸出したものであるから、原判決摘示の如き法条に違反するものとして処罰せられるは当然であり、原判決には何等所論の如き法令適用の誤がない。それ故論旨は理由がない。

二、論旨第二点について、

論旨は、原判決は、被告人らが税関の許可を受けないで貨物を輸出したとして関税法第百十一条第一項により処断したが、これは法令の適用に誤があつて、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかである。本件輸出については形式上税関の許可を受けているもので、この点につき、原審は、税関係員の輸出許可は、外国為替銀行のなす認証が、その内容において虚偽でないことを前提とするものであるから、税関係員を欺き形式上輸出の許可をさせても、その許可は実質上無効のものと解しているが、税関係員は関税法に従つて輸出申告書と貨物とを具体的に照合して輸出をなすべきかどうかを決定する任務を有するもので、若し銀行の認証が虚偽であるか又は誤があるならば、許可することを拒否することができるものであり、従つて、たとえ前記認証に誤があつたとしても、税関係員の許可があつた以上、適法な許可があつたものと考えるべきであるから、無許可輸出をしたという原判決は違法であると主張するのである。

よつて按ずるに、貨物を輸出しようとする者は、外国為替銀行の認証を受けた輸出申告書を税関に提出しなければならないのであり、又外国為替銀行は当該輸出貨物の代金の決済が標準決済の方法に従つてなされることを確認した上でなければ、認証をしてはならないことは、輸出貿易管理規則第六条第四条の規定に徴し明白であるから、税関係員のなす輸出許可は、外国為替銀行のなす右認証が、その内容において虚偽でないことを必要条件とするものと解すべきである。

しかるに、本件輸出は、真実は、標準決済の方法によつてなされるものでないのに、被告人らが他から譲り受けた外貨交換済証明書又は外貨買取済証明書を利用し、外国為替銀行に対し、あたかも標準決済方法による輸出である如く詐つて、内容虚偽の標準決済の認証を受け、これを税関に提出して同係員を欺罔し、形式上の輸出許可を得たに過ぎないものであつて、若し右の如き虚偽の実情が外国為替銀行や税関の各係員に判つておれば、前記の認証や輸出許可をしなかつたものであることは、右各係員らの司法警察職員に対する供述調書中の供述記載によつて明らかである。

このように、真正の認証があつたことを必要条件としてなされる輸出許可においては、内容虚偽の認証により税関係員を欺罔し、形式上輸出許可をなさしめたとしても、その許可は実質上無効のものと認めるを相当とし、従つて実質上輸出許可がないことに帰するから、被告人らの本件貨物輸出の所為は、税関の輸出許可なくして貨物を輸出したものとして関税法第百十一条第一項に該当する犯罪を構成するものと解すべきである。

従つて、原判決には何等所論の如き法令適用の誤がないから、論旨は理由がない。

三、論旨第四点について、

所論は原審の被告人らに対する量刑は不当であると主張するけれども、所論を考慮に入れ記録に現われた諸般の情状を考察してみても、原審の被告人らに対する量刑(いずれも執行猶予を言い渡している)は相当であつて、不当な量刑とは認められない。

よつて、本件各控訴はいずれも理由がないので、刑事訴訟法第三百九十六条の規定に従い、これを棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 網田覚一 判事 小泉敏次 本間末吉)

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